『言の葉の庭』教科書のような仕上がりに驚愕『君の名は』公開前総復習

言の葉の庭

感想・レビュー

[評価]


■脚本:8
■演出:9
■キャスンティング:5
■この映画えらい度:9
■好き度:8
■期待値とのギャップ:8
■総合:9

81

/100

作品情報

2013/日本 上映時間46分

スタッフ
監督:新海誠
原作:新海誠
脚本:新海誠
キャラクターデザイン:土屋堅一
作画監督:土屋堅一

キャスト(声の出演)
入野自由:秋月孝雄(タカオ)
花澤香菜:雪野百香里(ユキノ)
平野文:タカオの母
前田剛:タカオの兄
寺崎裕香:タカオの兄の彼女

[あらすじ]
「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」など、繊細なドラマと映像美で国内外から人気を集めるアニメーション作家・新海誠監督が、初めて現代の東京を舞台に描く恋の物語。靴職人を目指す高校生タカオは、雨が降ると学校をさぼり、公園の日本庭園で靴のスケッチを描いていた。そんなある日、タカオは謎めいた年上の女性ユキノと出会い、2人は雨の日だけの逢瀬を重ねて心を通わせていく。居場所を見失ってしまったというユキノのために、タカオはもっと歩きたくなるような靴を作ろうとするが……。キャラクターデザイン、美術、音楽など、メインスタッフには、これまでの新海作品とは異なる新たな顔ぶれがそろう。短編「だれかのまなざし」が同時上映。(以上、映画.comより)

コメント


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君の名は」が今週8月26日の金曜日に公開とあって、最近よく耳にする新海誠の名前。前々から気になってはいたものの、なんだかよくわからずに先送りにしていた。しかしながら「君の名は」のプロモーションのインパクトは絶大。RADWIMPSの歌う主題歌「前前前世」のスピード感と相まっては何度も見たくなるその世界観に引き込まれ、過去作を見直すに至る。といっても今の所Netflixにある作品だけに限っているので、デビュー作「彼女と彼女の猫」は未見。公開順に見ていったのだが、その中でも明らかに完成度が高かった「言の葉の庭」。46分という短い時間に映画のすべてが詰まっているんじゃないかと思わせる仕上がりに、観賞後すぐにもう一度際生ボタンを押した。こうして溢れだした「好きじゃ」を、今回は書き綴ることにする。

アニメの可能性、既視感に溢れた世界観


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今までも、映像に関しては様々な観点から評価が高かった新海誠作品。自主制作とは思えないクオリティの「ほしのこえ」、今までのSF要素を一切取り除き、等身大の恋を描いた「秒速5センチメートル」の細やかな背景描写など、映像に関しては定評があった彼の真骨頂と言ってもいいのでないだろう作品が「言の葉の庭」である。冒頭、1番初めの水面のカットはそれだけでアートのようだった。アニメか、実写かその区別さえ難しい現実感に息を呑んだ。一方で人物はしっかりアニメ調。そこに現実感は一切与えていない。その間には明らかな差異が、そして違和感が生まれそうだが、逆に現実と虚構であることを表現し見事にマッチさせる。そして背景と内容の間にあるその違いのマッチが絶妙。「これはアニメーションという創作である一方で、テーマは我々の生きる世界そのものの上にある」まるでそう語っているかのようだった。

ビニール傘の透明感、水面の揺らめき、そこに映る光。学校でケンカが起きている後ろのビルで部屋の電気がつくそういった日常。今まで見たことないリアルさに感激。携帯の電源を落として自分の顔が映る感じや出来上がった靴の幼さも。挙げればきりがない。だからこそ深く共感できるこの映画は何度も観たくなる。背景の既視感こそがこの映画を「各々の映画」にする大きな要因だろう。

この映画で大きな精力を注がれているであろう、水の表現。ラスト付近、階段で話すシーンがあるのだが、その階段の淵に打ち付ける雨の表現がやたらと目についた。大事な会話がなされている最中、どうしてもその階段から目が離せなくなる。それほど独特な表現じゃないとも思うのだが、すごく印象深い映像のひとつだった。
そのシーンがこれじゃ。↓
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気になっていたら寄ってくれたりして、「新海誠、すごい。“見たい”を全て見せてくれるのか」と感動した。
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こういう細やかさが見てて楽しい。また実写では意味のない「現実感」というものは、アニメーション独特の感動をあたえてくれる。またそこに映る現実じゃない、いつもの風景は奇妙な既視感を観客に感じさせるのだ。その感覚がまるで夢を見ているかのように、それぞれの想い出と重なり共感する。こういった手法のずば抜けた才能にものすごく驚かされたのが「言の葉の庭」である。その他作品も、1度目に見た時はそれほど乗れずにいたが、今作を見て新海誠を知り改めて好きになった。だからこそ、「言の葉の庭」は彼の真骨頂であると思うのだ。今までの彼を全てまとめ作り上げた、そんな気さえした。

男の子なら憧れ共感する二人の関係


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高校生の男子は、やっぱり年上に惹かれる。いや、大学生になってもなお年上に惹かれる。全員がそうだとは言わないが、やっぱり実習に来た先生とかにドキドキしちゃったりするのが男子ってもんだ。「言の葉の庭」に出てくる二人はまさにそんな感じ。趣味、将来に没頭する孝雄の前に現れたどこかミステリアスなその女性は、趣味一筋だった彼の人生に新たな光を灯す。雨が導いた二人は些細な会話で徐々に距離を縮めていくのだけど、肝心なことは語らない。語れないのだろう。やはり相手は年上で、自分のことなんて「子供」としか思ってないだろうと、希望は淡く散ることが見えていると、思い込んでしまうからだ。確かに、年や二人の環境が結ばれることを阻む可能性の方が大きい。しかし、人間て難しいなと思ったのはまさに、そこなのだ。明らかに惹かれ合う二人、きっとそれを察していただろう孝雄の気持ちは「先生」という言葉で弾き返される。雪野が孝雄を想っていないなんて絶対に嘘だと観客の誰もがわかっていた。細かすぎて伝わらない好きなシーンのひとつに、晴れの日のいつもの公園でどこか孝雄を待ちながら『明日天気にな〜れ』と靴を蹴る雪野のシーンがある。晴れてなんて欲しくないくせに。自分のことをあまり語らない雪野、雨の日でなければ公園に来ない孝雄。その二人の心の片隅にある寂しさを実に繊細に描いたシーンだと思うのだ。それなのに、二人の間にある環境が、雪野の素直な気持ちを封じ込めてしまう。人間って難しい。そう思わず呟いてしまうシーンだった。

しかし、晴れの日に公園に行った孝雄の行動は結果的に雪野の本心を聞くことに繋がった。年上の女性の弱い部分、そんなのも男の子の好きなところだったりする。こういうとこにも共感性が…ね。
孝雄と雪野を出会わせた一方で、晴れが続くことで二人を遠ざけていた雨の日の公園。孝雄がいつもと違う行動をすることで物事が大きく動きだすというストーリー運びが大好きだった。ありきたりだがそれを退屈させない新海誠に驚愕。
また、この映画にはなんとも魅惑的なシーンがある。誰もがドキッとしたと信じたいその足のサイズを測るシーンは、タカオが雪野を好きになっていく過程を実に見事に描いていると思う。ぜひ映像で見ていただきたい。

まとめ


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多くの人と同じように私も、「言の葉の庭」この作品で新海誠のファンになった。映像の美しさだけでなく、人間らしさをやかましくない絶妙なラインで忠実に描き、見る人にとって様々は共感ポイントを散りばめているそんな明日への希望を残してくれるような作風も大好きだ。映画を見て「僕も、私も主人公のように生きよう」そう思わせたら勝ちだと思う。この映画はまさにコレだった。趣味に没頭することを許し、「未来がない」と嘆くことに終止符を打たせてくれる。二人の関係がどうなったかはわからない。ただ、遠く離れ離れになってもまだ、どこかで繋がっていた彼らを見るとわずかながら自信が、希望が湧いてくるような気もする。真面目で不真面目な秋月孝雄に深く共感し、気張りすぎずに、ただ自分にとって大切なことには一切の妥協を許さない、そんな生き方を雨の日の1限は必ずサボる15歳の彼から、朝からチョコレートをつまみに缶ビールを飲む雪野百香里から教わった。『どうせ、人間なんてどうせみんなちょっとずつ変なんだから。』(雪野百香里)

何よりもこの映画、タイミングが完璧だった。物語はありきたりでよくある話ながら、セリフ、音楽、それらのタイミングが完璧だった。言ってみれば”映画の教科書”だろう。タイトルインはもちろん、エンディングが入った瞬間の鳥肌は絶品。秦基博の甘い歌声が映画の余韻に浸らせる。

いままでは細田守だった夏映画を、東宝が新海誠にたくした。それだけで期待せざるをえない「君の名は」が本当に楽しみになった。8/26の公開を目前に控えた今、1度観てみるのはいかがだろうか。






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