『湯を沸かすほどの熱い愛』何故これほどまでに泣けるのか。共感のその先へ。

湯を沸かすほどの熱い愛

感想・レビュー

[評価]


■脚本:10
■演出:9
■キャスンティング:10
■この映画えらい度:7
■好き度:8
■期待値とのギャップ:6
■総合:9

84

/100

作品情報

2016/日本 上映時間125分

キャスト
宮沢りえ:幸野双葉
杉咲花:幸野安澄
オダギリジョー:幸野一浩
松坂桃李:向井拓海
伊東蒼:片瀬鮎子

スタッフ
監督:中野量太
脚本:中野量太
エグゼクティブプロデューサー:藤本款福田一平
プロデューサー:深瀬和美

[あらすじ]
宮沢りえの「紙の月」以来となる映画主演作で、自主映画「チチを撮りに」で注目された中野量太監督の商業映画デビュー作。持ち前の明るさと強さで娘を育てている双葉が、突然の余命宣告を受けてしまう。双葉は残酷な現実を受け入れ、1年前に突然家出した夫を連れ帰り休業中の銭湯を再開させることや、気が優しすぎる娘を独り立ちさせることなど、4つの「絶対にやっておくべきこと」を実行していく。会う人すべてを包みこむ優しさと強さを持つ双葉役を宮沢が、娘の安澄役を杉咲花が演じる。失踪した夫役のオダギリジョーのほか、松坂桃李、篠原ゆき子、駿河太郎らが脇を固める。(以上、映画.comより)

こちらが予告編↓

-コメント-


泣ける泣けると話題騒然の本作。そんなありふれた宣伝文句の映画など巷に溢れすぎていて信用などできるはずもなかった。とりあえず『泣ける』と銘打っておけばいいだろうというような安易さを観客である我々もとっくに気づいていたからだ。本作では『この感動は予測できない』というもの。まあ、この文句だけで見に行きたくなるかと言われれば絶対にそんな事はなかった。監督自身、宣伝には大変困ったと、公開が始まってさらに足りなかったと感じていたと言う。では何故劇場に足を運ぶことになったのか。なぜ泣けるのか。キャストの何が素晴らしいのか。そんなことをつらつら書いていこうと思う。

-なぜ泣けるのか-


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この映画、やはり特筆すべきは素人でも分かる素晴らしすぎる脚本力だろう。商業デビューを自らのオリジナル脚本で飾った中野量太監督。その狭き門をくぐったのも納得の素晴らしい作品が『湯を沸かすほどの熱い愛』である。観賞した人がもれなく『泣ける』と言っていたのはこの映画の何よりの宣伝になっただろう。私自身、友人、親戚、SNSなど様々なところで見聞きしたその評判についつい『観に行かなければ』と劇場に向かったのだ。

結論、ものすごく泣いた。今年一番泣いた。いや、映画を観てこれほど泣いたのは初めてだったろう。この映画にピークはない。ただ慢性的に涙が出てくるのだ。もちろん映画終盤にも泣ける場面はあるしそこがピークかもしれない。しかしそのシーンに限ってもお涙頂戴と言った臭い演出はなく、むしろ日常的な気さえするのだ。つまり、こちら側観客は泣く準備なんか全くしていないようなところでドット泣かされる、どうしようもなく泣いてしまうのだ。それは中野監督の微細なところにまで行き届いた人間の観察力、またそれを俳優に委ねすぎない詳細なシナリオから生み出される共感のもっと先にある没入感にあると思うのだ。

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そんなことを考える前、鑑賞中すごく印象に残ったのシーンがあった。学校に行きたくないとゴネる安澄(杉咲花)、ハンカチを忘れ母(宮沢りえ)がポッケから出したそれの匂いを嗅いで『…お母ちゃん臭い』と言う。そんなことを言いつつも、学校に行くまでの道のりそのハンカチを手でぐるぐる、学校についてからもぐるぐるずっと手元でいじっている描写があった。不安な学校生活をその母のモノをそばに置いてなだめるかのような、でも全く意味もないようなそんなわずかなことだから『これはアドリブなのかな?』なんて、思っていたのだが、そうでもないみたいで…中野監督はアドリブをほとんど入れないことが仲間内ではよく知られているみたいだ。こんなところまで?と思うような人間の行動ひとつとってもしっかりシナリオに記されていると言う。それを聞いた瞬間に、ふとこのシーンを思い出し、「あぁ、ここもきっと監督のシナリオなんだな」と察したのだった。そんな微細な演出がこの映画を観て泣いてしまうことに直結しているのだ。つまりサブリミナル的に映される日常のリアルにさも自分が主人公、またはその周りの人間になったかのような気がして、共感ではなくまさにその登場人物として泣いてしまうのだ。

◆〈母を大切に〉より⇨こんな親になりたい

映画を見る前、『母を大切にしたくなる映画だ』なんて触れ込みを聞いた。しかし、実際に観てみてそうは感じなかったと言うのが正直な感想だ。いや、もちろん母は、両親親族、みんな大切にするには違いないがこの映画を観てそれを強く意識させられたかと言うと違う。それは、この映画が死にゆく母を悲しむ映画ではないからだろう。母である双葉(宮沢りえ)が病床で苦しみそばで家族が泣く、そんな映画ならばまさに母を大切にしようと思う映画になったろうが、予告の通りこの映画の母は余命2ヶ月を宣告されてもどん底には落ちなかった。子供のため、できることを、やらなければならないことを完遂しようとする映画だ。そうして多くのことを関わるたくさんの人に施して、自分がいなくなった後の世界を満たすようにひたすら踏ん張り続ける。だからこそ母も大切にされていたのだ。映画ラストの衝撃も、その場面での〈探偵〉滝本が言った通り『あの人のためなら、何でもしてあげたいって、思うって言うか…』と言うセリフが全てを表現している。それに続く『多分それって、その何倍して貰ってるて思えてるからなんじゃないかな…』、が両親というものを実に的確に示している。

娘のブラジャーデビューを、その初めてを始めてあげること。ひとつの命から逃げた実の母、その人のように弱く嫌なものから逃げることに慣れぬよう心を鬼にして学校に向かわせる姿。さらにその実母の罪でさえ許し新たな道を与えたうえで死ぬようにと全てずっと昔から考えていたこと。子供のため、その周りの人たちの幸せのために時に苦しくも奮闘する母の姿を見て、こういう親でありたいと心から思った。大切にするから大切にされる。そういうことを見事なセリフ、シナリオで魅せてくれるのが『湯を沸かすほどの熱い』である。

*ちなみに…

本作で、どうしても泣いてしまう双葉の大好きなセリフがある。それは、安澄が学校で絵の具をかけられ、明らかなイジメを受けながらも「全部自分でやった」と言い保健室にいた時のことだ。保健室に走ってきた双葉に安澄は『..数えたら11色あった…』と目にいっぱいの涙を浮かべて話した。それを見て、聞いて双葉が一番初めに言ったのが『…その中で好きなのは?』だった。同じく目にいっぱいの涙を浮かべた双葉。安澄の気持ちを汲み取って必死に強く振る舞う娘に問い詰めることなく、そっと寄り添うその姿がとても健気で、現実ではとても実現できないほど脚本的だがそのセリフがこんな親になりたいと強く思ったワンセンテンスだった。

完璧に演出されたシナリオで描く熱い愛。さらに観客を驚かせる意外性をも兼ね備えた本作は単純に、脚本がすごいってこういうことか、というある種のボーダーラインになった。そのボーダーはあまりに高く、上がりすぎたハードルを超える作品がいつ出てくるやと不安になりつつも、劇場でこの作品を見れたこと、後述するが監督とキャストのトークショーに行けたことは大変に貴重で思い出深い作品となった。今年も終わりに近づいてきたが、新宿の武蔵野館ではまだ上映しているのでぜひ2016年泣き納めはこの作品でいかがだろうか。

-杉咲花について-


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この映画を傑作に押し上げた要因のひとつに、杉咲花という女優の力があることは間違いないだろう。彼女の演技はきっと同世代のどの子と比べてもダントツ。絶妙な感情の強弱が観ている観客の心をじわじわと奪ってゆく。この映画に限っては、涙を堪え強くあろうとする彼女がたまらなく切なくて、、、。何かのキャッチコピーで見たのだが、「泣かれると辛い、でも、我慢されるともっと辛い」というものがあったと思う。杉咲花の演技はまさにこれで、ワンワン泣かれてそれに共感して涙するというよりは、我慢する苦しい顔の彼女に誘われて泣いてしまう。文字にすると薄く感じてしまうかもしれないが、日常で泣く瞬間っていうのはこういう時じゃないだろうか。つまり、今まで泣いてきた映画は映画として泣いていたのに対し、『湯を沸かすほどの熱い』ではより日常的に泣いたと言おうか、映画館を出た後にちょっと疲れるぐらい本気で泣いた。これは決して脚本だけでは成し得なかったことである。杉咲花という女優が器用に役の感情を読み取り、繊細にセリフを観客に伝え、確実に幸野安澄であったからこそなのだ。
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ホイコーローのCMでおなじみの彼女、うまいこと気流に乗って欲しいが一本ぐらい超駄作みたいなもをやっちゃって欲しい気もする。何にせよこれからも絶対に見逃せない女優であることは間違いない。

-トークショーについて-


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先日、12月27日(火)に新宿武蔵野館でトークショー付きの上映会が行われた。客席は満席、明るくなった劇場に中野監督(『湯を沸かすほどの熱い愛』)が入ってくると以外にもみんな静かで監督に申し訳なさを感じながらも「やっぱこの映画館好きだ」なんて思ったりした。まあ、すぐに始まり拍手で迎えられるゲストは、娘、安澄役の杉咲花と『トイレのピエタ』の松永大司監督。すぐに話し始めたのは両監督の杉咲花愛だった。彼女をいいなと思っていた中野監督がその子の話をカフェでしたことをすっかり忘れていた松永監督。後に『トイレのピエタ』で主演をつとめるのが杉咲花だと知った時に中野監督が『おい!』って思ったことなんかを話しながら、役者としてほんとに魅力的な女優さんなんだな、ということがとひしひしと伝わってきた。

さらには両監督が同じようなテーマを扱いながらも描き方がまったく違うということも話してくれた。中野監督がものすごく丁寧な脚本を書くのに対し、ほとんど言葉を書かないのが松永監督だという。そんな松永監督は中野監督のシナリオをべた褒め。自然と泣いてしまうその人間力がすごいと話していた。最後には杉咲花が『湯を沸かすの本は監督が描きました、買って欲しいと言っていました。』とちょっと茶目っ気に宣伝する場面もあり、30分程度の短い時間ではあったが、実に楽しい時間だった。これからも地方などを回ると言っていたので、気になる方は監督のtwitterなどを要チェック。

-まとめ-


ピークはなくとも慢性的な涙で満たされる、そんな映画が2016年後半の話題をさらって行った。いちいちセリフが湿っぽくて、それでいて力強くてとても涙なしには観られない。現段階で2回鑑賞したがやはり涙の量はほとんど変わらなかった気がする。先を知っていてもなお刺さるシナリオは家族の愛という普遍的な物語でありながら、現代劇として個性的に存在している。公開から時間もたちあまり多くの劇場では上映していない時期での記事アップで今更感は否めないが、新宿では少なくともやっている!この作品、大きな劇場で見る映画ではないかもしれないが、武蔵野館ぐらいのコンパクトな映画館でひっそり一人で見て泣いて、思い出にするのはすごくいいと思う。今年も今日、明日で終わり。ぜひ劇場で泣きじゃくってスッキリしてから新年を迎えてみてはどうだろうか。今年ベスト級の作品です。ぜひに。

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